授業は生徒の「知」と「感性」を共有しあう場


問題発見力の育成にロイロノート・スクールを活用
開成中学校・高等学校

私立トップの開成中学校・高等学校で、国語の授業にロイロノート・スクールが使用されました。どのように活用されたのでしょうか。授業を担当した同校現代文担当の山川教諭にインタビューしました。

Question 1

授業にICTを取り入れた経緯を教えてください。


これからの教育の流れを見据えて、まずはやってみようと思い、ICTの活用を始めました。

山川教諭は、ロイロノート・スクールを活用し、初めてタブレットの1人1台環境での授業に挑戦しました。
「学校全体として取り組んでいるわけではありませんが、これからの教育はICTを活用する方向に進むと考えています。開成としては、1人1台で行うのは私が初めてで、どんな授業ができるのか、まずはやってみようと思い、始めました」


Question 2

どのように、ICTを授業の中で活用しておられますか。


生徒主体は当たり前、生徒がいかに教師を超えていけるかを重視しています。

全国屈指の名門男子校で知られる開成中学校・高等学校は、東京大学の合格者数トップを誇るとともに、各界をリードする人材を多数輩出しています。学業はもちろん、部活動や学校行事が盛んで、それらが全て生徒主体で運営されています。

「そもそも私は授業で、生徒たちがいかに教師を超えていけるかを大切にしています。なぜなら、彼らは将来、現代社会の誰も直面したことがない問題に向き合うことが求められているからです。そのため、現代文の授業では、本文に線が引かれた部分だけを考えるような学習ではなく、生徒が自分で考えて問いを立てる、問題発見力の育成をもっとも重視しています。そのような視点で、ロイロノート・スクールを使えないかと考えました」

生徒主体は当たり前。そこからどうやって、教師を超える人材となっていけるか。それを実現していくために、山川教諭の授業にはさまざまな工夫が散りばめられていました。

クラス全員の「知」を結集する、
オリジナル問題集づくり


山川教諭の授業では、先生ではなく、生徒がお互いに問題をつくります。難解な文章を読んだ後、クラス全員で問題を作成し、それを全員で解きながら解釈を広げていきます。このオリジナル問題集づくりにロイロノート・スクールを使いました。
教材は、ガルシア・マルケスの『光は水のよう』です。
1時間目は、全体を通読し、各自で問題を作成します。高校生が1人で読み解くには難解なこの小説を、生徒はまず、自分の力で通読し、分からない部分や気になった部分について、ロイロノート・スクールを用いて問題を作成・提出します。

(写真は生徒が作成した多様な問題。「家庭電化製品の詩情とは何か」「光は何を表しているのか」「何年間も闇の中に失われていたものとは何か」など。)
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2時間目は、生徒がつくったこれらの問題を、オリジナル問題集として配信し、各自好きな問題を解いていきます。この活動によって、生徒は「模範解答」のような「正しい読み」を行うのではなく、自分の力でテキストを読み解く「野心的な読み」を行います。

この問題集づくりは、当初「〜はどういう意味ですか?」といった、単純な調べ課題を設問としてあげる生徒が多かったそうです。しかし、こうした授業を重ねていくうちに、調べて答えが分かる問題を授業でわざわざ取り上げる意味がないことに気づき、次第に皆が気づかない部分を問題にしてみようという意欲を持つ生徒が増えたそうです。そうすることによりどんどん内容が濃いものになりました。

オリジナル問題集を個別学習で解いた後は、全員で問題の答えを整理しつつ、誰も手をつけなかった問題に全員で取り組みます。同時に「『光は水のよう』は、(   )な物語である」という設問に答えていく中で、物語全体を自分の言葉でまとめていきます。


詳しくは実践事例をご覧ください!

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「正しい」読みではなく、
「野心的」な読みを。
「答え」を見つけるのではなく、
「問題」を設定する力を。


山川教諭が、このようなオリジナル問題集を学習活動に取り入れる意図は、「自分で読む」力をつけるというところにあります。

「誰も解いていない問題を解くためにはどうすればいいか。一つの手段として、全体のテーマを考えることで解き方が見えてくることがあります。また逆も然りで、解けなかった問題に重きを置いて小説を捉えることで、自分たちが考えたテーマは違うのではないかと気づくこともあります。テーマと問題、すなわちマクロとミクロを行き来することで、何通りもの読み方、見方を広げていきます」

一つの小説・テキストに対して、見方・捉え方・視座を変えることによって無数の「読み」が発生します。「正しい」読みではなく、「野心的」な読みを。テストの「答え」を見つける力だけではなく、現実世界の問題を「自分の力で読み解き」、「問題」を見つける力を授業を通して身につけていくことが、山川教諭のねらいです。

「野心的な読み」、「自分の力での読み解き」の活動を加速させるために、山川教諭は、ロイロノート・スクールの生徒間通信機能を使って、リアルタイムでクラス全員の意見共有を行いました。
生徒主体の活動の中で、山川教諭が行ったのは、生徒の意見を「集約」することではなく、「発散」させることでした。

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「一覧表示でクラス全員が同時に意見を書き込んでいくと、一番多い意見に追随してしまう傾向があります。しかし、同じ意見はいくつかでれば良いので、授業ではもっと他の意見がでるようにロイロノート・スクールを活かしました。授業で学ぶ意味は、全員で知恵を結集して、今ここにない視点を見つけていくことだと考えています

授業の最後に、山川教諭が生徒の見落とした視点などについて考察します。一方的に「正解」を提示するのではなく、生徒が気付かなかった「可能性」に目を向けさせることによって、「次はもっと、他の人が気付かなかった視点を見つけてみよう」と、さらに野心的に次の教材に挑む力を醸成します。

「空気感」まで共有できる!
「提出」で実現した「感性」を磨く授業


梶井基次郎の『檸檬』を題材にした授業では、内容に対するアンケートをロイロノート・スクールで実施しました。

生徒は、各自、『檸檬』を通読した後、(この作品が)「病的か、健康的か?」「西洋的か、日本的か?」などのアンケートに5段階評価で回答します。
言葉の具体的な意味や、解釈を追う前に、まずは生徒の感じた空気感を形にします。また、小説のキーポイントとなる「みすぼらしくて美しいもの」についても全員で考え、ロイロノート・スクールでイメージを共有しました。

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「国語は感性を共有することがとても大切だと考えています。論理的な理解も必要ではありますが、授業ではクラス全員でイメージや空気感を共有し、自分の感性や理性をぶつけて、自分を磨いてほしいと思っています。学校に集まる意味は、そうした環境の中に身を置いて、他者を見ながら学べることにあると思います」
この授業ではその後、「主人公」「小道具」「時代背景」の3つのパートに分かれて各自で分析し、ロイロノート・スクールを使って、各自の意見を「提出」します。そこから、各自が好きなものを選んで、小説の読解についてのプレゼンテーションを行いました。

「内容の難しさに圧倒されて読めない小説であっても、クラス全員の知が結集された分析内容を自由に使うことで、小説を読み解くことは可能です。この方法であれば、生徒は教師の手をはなれて、生徒自身で駆動していくことができます」

生徒が教師を超えていくためにはどうすればいいか。
ここに軸足を置いた山川教諭の授業では、「問題発見力の育成」「感性がぶつかる授業」「全員の知を結集する学び」などが国語の授業を通して実現されていました。こうした取り組みの中で、簡単に意見を共有できるツールとして、ロイロノート・スクールが活用されていました。

Question 3

授業にICTを取り入れることにどんなメリットを感じましたか?


作業時間を圧倒的に短縮することができ、また、生徒同士の意見共有がとても簡単になりました。

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山川教諭の「オリジナル問題集づくり」は、ロイロノート・スクール導入前から行われていました。しかし、その準備にかかる時間はロイロノート ・スクールの導入で劇的に変化しました。

「紙で授業準備を行っていた頃に比べると10時間以上は効率化できています。ロイロノート・スクールは生徒の食いつきも良く、共有しやすいことがメリットですね」

ロイロノート・スクール導入前は、生徒が紙に書いた問題を整理して、テキストに打ち直し、問題集を作成していました。この作業に要する時間は、3時間。これを受け持ちの全8クラス分作成するのは、膨大な作業量と時間を要しました。
ところが、ロイロノートでの問題集づくりは、問題用紙の準備・整理・テキストの打ち直しが不要で、提出された問題カードを並べ替えるだけなので、準備時間は1クラスあたり、30~40分になりました。ICTを取り入れることで、作業時間の大幅短縮に成功しました。
短時間の準備で、より密度の濃い授業を。ICTを利用することで、授業における教師・生徒の役割や授業のあり方に変化をもたらし、課題設定・解決能力をはじめとした新しい時代のリーダーに必要な能力の育成に効果的であることを、山川教諭の取り組みから実感することができました。